【連載-いっぴんさん】日本DSSフーズの「南総里見うなぎ」(鋸南町)

蒲焼・白焼は1尾各2500円。いずれも冷凍の真空パックで販売。食べる時はパックから出し、好みの大きさに切ってフライパンで焼く。身の方から焼くとより美味しく味わえる。うなむすび1個500円は、電子レンジであたためればそのまま食べられるお手軽な商品だ。

地域の復興と未来に想いをのせて、鰻養殖へのチャレンジ

 鋸南町の長閑な田園風景の一角に、突如として現れる白い建物群。実はこれ、地元の建築会社、東海建設が2020年に設立したグループ会社「日本DSSフーズ」が運営する養鰻場である。  「裏山から流れる山水を引き込んで、鰻を養殖してるんです」と案内してくれたのは、広報を担当する黒川友美さん。水質の良さを保つことで、鰻の病気のリスクを軽減。無投薬での養鰻を行っている。なお、鰻の稚魚は資源量の枯渇が懸念されているニホンウナギではなく、東南アジアに生息するビカーラ種を使っている。  「千葉県の物産品として認知されたい」との目標を掲げているだけあって、蒲焼のタレには山武市の醸造所「大髙醤油」の醤油を活用。〝千産千消〟に力を入れる。一度蒸してから焼き上げた蒲焼はふわふわの食感で、うま味を携えた風味がなんともいえない。クセや脂っぽさがないのも印象的だった。しかし、なぜ鰻の養殖なのか。きっかけは、2019年に襲った房総半島台風だった。  当時の台風で屋根を飛ばされるなどの甚大な被害を出した鋸南町。建設会社として建物の修復に回る中で、「過疎化が昔よりずっと進んでいて、耕作放棄地も広がって、なんとかしなければと感じた」と、代表取締役の平田康裕さんは振り返る。一方で、鋸南町は元々魚の海上養殖が盛んな地。今後の海の変化のリスクにも対応でき、雇用を生んで耕作放棄地を活用できる…そうして陸上養殖を思い付いたという。そんな折、愛知県にある養鰻業者の協力を得られたことから、養鰻の事業化に着手。2021年に鰻養殖業許可を取得し、翌年の11月に初めて池上げに成功。「南総里見うなぎ」として出荷が始まったのだった。  美味しさのためには養殖だけでなく、加工も手を抜かない。黒川さんは「みんな、まったくの素人から始めて学んでいったんです」と話すが、慣れた手つきで、次々と鰻が捌かれていく。ピーク時で一日400匹を捌くという。小骨も抜き取ったら丁寧に洗う。「血合いも焼くと焦げて汚く見えるので取り除きます」。こうして、稚魚から育てた鰻が南総里見うなぎとして届けられていく。  今後はホンモロコの養殖や、飼育水を利用した水耕栽培など、食を通じた可能性はまだまだあると、これからの意気込みを語る平田さん。地域とどう関わり合いながら事業を展開していくか。次のステップにも期待したい。

(取材・文:沼尻亙司、撮影:織本知之)

1.鰻を捕まえるのにひと苦労 2.鰻をびくに入れて計量 3.魚体の大きいものと小さいものとを分ける。実はこの選別は大切な作業。ずっと一緒に育ててしまうと弱肉強食の環境で、小さい魚体の鰻がエサを食べられなくなってしまうのだ 4.鰻は暗い環境で養殖する 5.泥抜きをした鰻を捌く。包丁の刃がヒレや骨にかまないようスムーズに開くのが難しい 6.小骨を取り、血合いも落ちるまで綺麗に洗う

店名 日本DSSフーズ
住所 〒299-2115 安房郡鋸南町下佐久間855
電話番号 0470-29-7703(平日8:00-17:00)
営業時間・定休日 直売はしていませんが、向かいにある安房かつやま弁当で販売
WEB https://www.japan-dssfoods.jp/
販売・お取り寄せ 販売箇所/安房かつやま弁当、道の駅保田小学校、おどや一部店舗、富楽里とみやま、地元スーパーなどで販売、お取り寄せ/webショップ、電話で受付。鋸南町ふるさと納税返礼品

※2023年9月号に掲載
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