【連載-いっぴんさん】大多喜麦酒の「クラフトビール」(大多喜町)

定番は「OTAKI ゴールデンエール」に加え、柑橘系のホップの香りと、やや強い苦味や麦芽の旨みが特徴的な「OTAKI IPA」、ブラックチョコレートの様なほろ苦さを持つ黒ビール「OTAKI スタウト」の3種類。各330㎖660円。このほか、季節のフルーツやハーブなどを副原料に使ったビールも期間限定で販売されるので注目したい。

里山のブルワリー
大多喜の風土を醸したクラフトビールを目指して

 養老渓谷や城下町・大多喜の古い町並みから車で15分ほど。いすみ鉄道の総元駅(※)からであれば、川や田んぼをなぞるように伸びる道を30分弱歩けば辿り着く。山林に抱かれたのどかな里山集落の一角に、「大多喜麦酒」のブルワリーはある。  「夏になると蛍が飛び交います」と、カウンターに立つ大多喜麦酒代表の宮﨑繁さんは窓の外に広がる緑に視線を向ける。大多喜麦酒ではこの豊かな自然を活かし、仕込み水にこの地の地下水を利用している。元々、東京でアパレル会社のデザイナーをしていた宮﨑さんは、独立を考えていた時に、クラフトビールを扱う店や大多喜を訪ねる機会が重なり、ビールづくりを決意。栃木や岩手のブルワリーなどでの修業を経て、2022年に醸造を開始した。工房の傍に設けられたこのタップルームは元々農家の納屋だった場所。リノベーションされ、ビールのテイスティングや料理を味わえる空間となっている。  さっそく、「YAMABUKI 山吹」と名付けられたゴールデンエールを注いでもらう。「数種類の麦芽(モルト)をブレンドして、甘さとホップの爽やかさのバランスをとったビールで、うちの定番商品です」と解説する宮﨑さん。グラスを傾けるや、華やかな香りが鼻腔をくすぐる。クセのないすっきりとした飲み口で、ついもう一杯に手が伸びてしまいそうだ。続いて戴いたのは大多喜で養蜂を行う「はちぐみ」のハチミツを副原料に使った「ハニーエール」。まろやかな甘みが感じられる独特な風味が印象に残った。  ビールづくりの工程はまず、麦芽の持つでんぷんを糖化させた後にもろみを絞り、その麦汁を煮沸。煮沸後の麦汁に酵母を入れることにより糖分からアルコールへと発酵させ、熟成していく流れとなる。  この際、苦味や爽やかさの元となるホップや、商品ごとに使う副原料をどのタイミングでどのくらいの時間入れるかが、味づくりの決め手となる。また、例えば柑橘類を副原料に使う時も、果汁を使うのか皮を使うのかでも出来上がりの風味は変わってくる。こうした味づくりの自由さが「難しいところでもあり、この仕事の魅力的なところ」と宮﨑さん。「私自身、元々ビール好きというのもあって、いろいろなビールを飲みたいんです。新しいビールを自分で考えることのできるこの仕事はすごく楽しいですね」。  そんな宮﨑さんがこれから目指すのは、定番のビールを増やすことと、地元の産物を副原料に使った「ここならではのビール」を今以上に開発すること。果たしてどんな新しいビールがこの里山から生まれてくるのか、楽しみである。

(取材・文:沼尻亙司、撮影:織本知之)

1.もう少しで熟成を終える完成間近のゴールデンエール。グラスに注ぐと辺り一体に華やかな香りが広がった 2.最良のコンディションを維持すべく、毎日タンク内の状態の記録は欠かせない 3.手前は麦芽の糖化を促すタンク。その後、麦汁の煮沸を経て、背後に並ぶ発酵・熟成タンクへと送られる 4.ホップは苦味と爽やかな風味作りに必要不可欠 5.農家の納屋を改装したタップルーム。外にはバーベキュー施設もあり、合わせて楽しんでみたい

店名 大多喜麦酒
住所 〒298-0235 夷隅郡大多喜町字筒原215
電話番号 0470-62-5072
営業時間 12:00-19:00 ※土日祝のみ営業
定休日 平日
WEB https://otaki-brewery.jp/
販売・お取り寄せ ●販売箇所/左記工房の他、道の駅たけゆらの里おおたき、山喜屋(ショッピングプラザオリブ内)等で販売 ●お取り寄せ/メールで受付

※2025年4月号に掲載
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