
工房では削節を量り売りで直売。200g500円。「房州かつお節」は90g500円。贈答用の段ボールパックも用意。さば節はかつお節に比べ味が濃く、香りが強い特徴から、蕎麦やうどんのダシや鍋物に使うことが多い。また、麺つゆのダシを引くときはさば節とかつお節を5対2の割合でブレンドするのがおすすめとのこと。ラーメンやカレーの隠し味にも活用してみたい ※枯節は現在受注生産となっています
伝統の「手火山」製法
「うま味」を支える房州の食文化
GW明けの晴天の日。朝7時に吉田商店を訪ねると、工房は既にうま味を予感させるさば節の燻製香で満たされていた。 「寒くなると人は服を着るけど、サバは着られないでしょ。それで脂を付けていく訳」と語る、三代目の吉田仁一郎さん。房総半島はさば節作りの北限と云われるが、さらに北上してしまうと、寒さの影響で脂がのってしまうから。脂が多すぎると渋みが出たり、ダシの濁りの原因となる。吉田商店では伊豆諸島近海で水揚げされたゴマサバを使うが、脂ののっていない時季のものを選ぶ。つまり、さば節製造の最盛期は3月上旬から5月末頃にかけてということになる。 約百年前に館山市南部の漁村、布良で創業した吉田商店。昭和36年に現在地へ移転してきた。「カツオは、仕入れ先の勝浦では鮮魚向けが多い」ため、さば節8割、かつお節2割の割合で製造している。節は原料魚を煮熟した「生利節」→煮熟後に燻し、乾燥させた「荒節」→さらにカビ付けして乾燥させた「枯節」→枯節の工程を何度も繰り返した「本枯節」と、製造段階によって呼び名が変わる。吉田商店ではサバ、カツオの本枯節を製造するほか、それぞれの削節も作る。 下処理をしたサバは、まず釜で30~60分煮る。魚体の大きさやその日の気候を踏まえ、煮崩れしないよう煮る時間の調整が欠かせない。煮上がり後は中骨を取り、いよいよ燻しの工程、焙乾へと移る。 サバを蒸籠に並べ、薪でじっくりと燻煙。昔ながらの「手火山式」焙乾だ。機械式と違い、節の内側から水分が抜けていく。水抜き焙乾となる一番火は6時間、二番火は4時間半、三番火以降は3時間という具合に、時間を調整しながら焙乾を繰り返す。味と香りの決め手となるだけに、火加減は特に経験が問われてくる。 焙乾後はカビ付け。カビの作用で内部の水分を除き、脂肪分を分解させる。そして、表面に上がってきた水分を飛ばすため天日に干す。これを5回以上繰り返す。表面の青緑色のカビが茶褐色に変化し、ようやく仕上がるのは10月頃である。 「安房地域に約十軒、さば節やかつお節を作る所がありますが、40代以下の後継ぎがいるところは、うちを含めて4軒のみ。十年後が心配です」と、四代目の勇二さん。一方で、長年付き合いのある蕎麦店のほか、近年ではラーメン店からの引き合いも増えているという。いつまでも残り続けて欲しい、房州の食文化である。
(取材・文:沼尻亙司、撮影:織本知之)

1.水揚げされたばかりだと煮た際に身崩れしてしまうため、ひと晩冷蔵室で保管、熟成させたゴマサバを使う 2.と内臓を取り除いて下処理をする 3.下処理をしたら釜で煮る 4.煮熟したサバの中骨を取る 5.手火山による焙乾。「火持ちがいい」と、地元のマテバシイの薪が使われている 6.燻しムラが出ないよう、途中で蒸籠の上下を入れ替える 7.カビ付けした節の天日干し。「雨に打たれると点々の模様が残る」ため、常に空模様と睨めっこ
住所 〒294-0033 館山市宮城280
電話番号 0470-23-3444
営業時間 8:00~17:00
定休日 日曜
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※2023年8月号に掲載
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